《津軽塗の歴史》
江戸時代中期から300年以上、愛されて。
津軽塗は青森を代表する伝統工芸品です。
1975年に『経済産業大臣指定伝統的工芸品』に指定された津軽塗。
以来、日本の代表的な伝統工芸品として国内外に広まり、高い評価を受けています。
津軽塗の歴史は、江戸時代中期にさかのぼります。
当時、津軽藩と呼ばれていたこの地域では、多くの塗師が腕を競っておりました。
参勤交代による街道の整備で流通が発達し、日本各地でさまざまな工芸品が誕生し発展した時代。
津軽藩でも地域の産業を推し進め、その中でひときわ輝きを放った漆法がありました。
父も塗師で、その想いと技術を継いだ二代目池田源兵衛が生み出した、
塗っては研ぎを何度も何度も繰り返す独自の技法。これが津軽塗の始まりです。
以降、藩において盛んにその製法を奨励したため、津軽の一大産業となりました。
三百年以上経った今も、その独特な美しさは多くの人々に愛されています。
職人のこだわりが色濃く反映された津軽塗は、江戸時代からの歴史の中で、
多種多様な工夫を凝らした塗り方が数多く考え出されましたが、
現在は主に、唐塗、ななこ塗、紋紗塗、錦塗の4つの伝統技法が伝えられています。
【唐塗
】
唐塗の「唐」とは、“珍しく優れたもの”の意味。
津軽塗の代表的な技法で、
生産数が多くポピュラーな塗りです。
何度も漆を乾かしながら塗り重ね、さらにその模様を研ぎ出し、
摺り重ねて艶をつけて仕上げます。
膨大な手間と時間をかけることから、別名「馬鹿塗り」と呼ばれるほど。
同じ模様はないと言われており、唯一無二の自分だけの一品を
手にできるのも楽しみのひとつです。
【ななこ塗
】
ななこ塗の「ななこ」とは、“魚の卵”の意味。
上品で女性からの人気が高く、研ぎ出し変わり塗り技法の一種です。
下地の上に彩漆を塗り、乾かぬうちに粒揃いの菜種を蒔いて、
愛らしい小さな輪紋を作ります。
江戸小紋を思わせる模様は、ムラなく研ぎ出し仕上げていく、
繊細な技が浮かびあがらせたもの。奥ゆかしさと高級感が混在する、
独特の味わいが魅力です。
【紋紗塗
】
紋紗塗の「紗」とは、津軽地方で“もみ殻”の意味。
存在感のある黒漆が印象的な、渋みのある玄人好みの塗りです。
下地の上に黒漆で模様を筆描きし、乾いた後に、もみ殻の炭粉を蒔いて、
砥石や炭で黒漆模様を研ぎ出します。黒漆と炭粉を使うこの塗りは、
研ぎ出し技法の中でも最も独特で、全国的にも他にないと言われています。
丈夫さと渋さを兼ね備えた漆黒、その迫力は津軽塗ならではのものです。
【錦塗
】
錦塗はその名の通り、きらびやかな錦を表した塗り。
四つの技法の中では最も新しく、華やかで稀少価値の高い塗りです。
ななこ塗の地に錦の紋様をあしらい、風格のある金色に仕上げていきます。
紋様は図柄と色使いに決まりがあり、錦を演出する古典的唐草や紗綾型などを
漆で描ききる優れた技量が必要。
最高峰の技術を要するとされています。現在では塗り上げられる職人が少なく、
特に価値の高い豪華絢爛な塗りです。
※紗綾型…卍と稲妻の組み合わせともいわれる模様